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新しい知の時代

日経産業新聞: [1 月 1, 2004 ]

スタンフォード大学は、サンフランシスコから南に50キロほどのところにある。私のオフィスからは目と鼻の先にあるのだが、久しぶりにそのスタンフォード大学の図書館に行って驚いた。どのフロアにも、見渡す限りコンピュータが並んでいる。学生たちは、あるものはキーボードを叩き、ある者は画面をひたすらスクロールして資料を読んでいる。コンピュータの前の学生たちは、学内外の数百のデータベースにアクセスし、情報を調べ、読み込み、分析しながら課題をこなす。昔ながらの「本が累々と並び、学生はそれを机に並べて読む」という情景は殆ど見られない。

この光景を見て、「体系化された本を、一冊ずつ読み重ねることでものを学ぶ、古きよき時代は終わった」ということを実感した。学生が勉強すべきことは爆発的に増えている。15年前には博士号論文レベルだった遺伝子組み換え実験を、最近では高校生がするようになった。膨大な情報量に、さらに新しい情報が刻々と加わっていく現代では、オンラインでなければ、とても必要な情報にアクセスしきれない。

さらには、技術革新が早まり、学校で学んだ知識では安住できない今、オンラインで必要な情報を調べ上げる方法自体が、生涯において必要となるスキルでもある。例えば、スタンフォードのビジネススクールでは、学内の図書館で閲覧可能な有料データベースを、卒業生に対しても格安で提供しており、数千種類の学会誌や専門誌にアクセス可能。「検索スキル」のみならず、「最新の情報」そのものを提供しよう、というわけだ。

もちろん、何かを系統立てて理解するにはやはり本の形になったものが優れている。しかし、溢れるほど本がある中で、一体どれを読んだらいいのか。本当に読むべき本を選別するためにも、オンライン情報での精査が効率的だ。

世界最大のオンライン書店、Amazon.comでは、この10月からSearch Inside the Bookというサービスを始めた。本の中身の全文検索を可能にし、検索結果が載っているページを画面上で見ることができるというもの。対象は12万冊、3千5百万ページに及ぶ。同社では「サービス開始後一週間で、全文検索対象の本が、そうでない本より9%売上げが伸びた」としており、「オンラインで精査した上で本を購入」という潜在ニーズがいかに高かったかわかる。

一方で、従来考えられなかった上質なオンライン・コンテンツも増加している。例えば、理工系大学として世界最高峰の一つであるマサチューセッツ工科大学では、学校の授業の内容を全てオンラインで公開するOpenCourseWareを9月から開始した。33学科の500コースに関し、その教材、授業ノート、試験問題、課題などを、世界中から誰でも自由に見ることができる。

インターネットが本当に社会に変革をもたらすのはこれからだ。特に教育は、大きく姿を変えるだろう。志と探究心さえあれば、どこからでも豊富な良質情報に触れられるようになることで、世界中からより優秀な人材が誕生するようになる。そして、その優秀な人材は、英語を共通語とするだろう。英語で得られる情報は、質・量とも、圧倒的に優れているからだ。

当面この英語優位は揺らぎそうにない。

1 月 1, 2004 in 日経産業新聞 | Permalink

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