アメリカで事業を始めるシリーズ。優秀なexecutive候補に出会うための方法で「自分の会社(や自社事業)の素晴らしさを売り込む」とサラッと書いたが、これ、難易度高いです。
日本だと、自社事業を売り込む相手は
1.すでに他社の同様のサービス・製品を使っている見込み顧客や業界内の人など、「自社事業の領域をよく知っている人」
か、
2.まったく何も知らない人
のどちらかになることが多いかと思う。なので、この二つに対応する「売り込み方」はその業界で長くやってきた方や、起業家の方だったら皆さんお上手。
1.は専門用語をちりばめ、前提条件抜きにいきなり細部を表現することになる。
2.は大雑把な売り言葉になる。
しかし、アメリカで事業を始めるとなったら、1と2の間の人たちを巻き込むことが大変重要。あなたと話して、その事業がすごいとおもえば、本人はあまり関係ない仕事をしていても、誰かほかのより関係ある人を紹介してくれるかもしれない。そしてそういうツテがとても大事だ。
つまり、
「業界のインサイダーでない、しかしビジネスのプロの人たちに自社を売り込めることが、人の関係でビジネスができていくネットワーク社会のアメリカでは非常に大事」
なのです。
そして相手は、「ビジネスのプロ」。「一般人向け」の大雑把で形骸的なことを言っても、関心を持ってもらえない。
ではどうしたらいいのか。
「話し方のコツ」とか「プレゼンのコツ」など、いろいろあるんですが、そういうhow toに入る前に本質的なことがあります。それは「自分の会社・ビジネスが『なぜ』すごいかのファクトを集める」ということ。
ステップ1:まずは自社の何がすごいのかを自分が理解する
「何がすごいか」は競合を含む「外の世界」と比較して初めて出てくるもの。なので、いろいろな外部の人とたくさん話をしていないとなかなかわからないものではある。ということで、まず「何がすごいのか」を頭をひねる。
特に大企業では、そもそも個別の製品スペック以外で自分の会社の「なに」がすごいのか、知らない人が多いので、このステップが重要。自分の会社の悪いところを列挙するのはとても簡単ですが、いいところをリストアップするのは結構勇気と知恵がいる。
ステップ2:すごさを証明するデータを集める-形容詞利用禁止
「速い」「わかりやすい」「精度が高い」「先鋭的」などなどの「形容詞(またはそれに類する表現)」はすべてNG。言うだけなら誰でもできる。本当にそうであることをファクトで実証しないと、相手は「何かいろいろ言ってる」としか思わない。
「XX秒でできる」
「初めて触ったユーザーのX%が、Y分で使いこなせる」
「誤差はXナノメーター」
「業界で初めてのYという機能を実装した」
などなど。
ステップ3:上記のファクトがなぜすごいかが、業界外の人でもわかる背景事情を付け加える
たとえば、あなたの業界内では、特定の処理を30秒でできることがすごいのかもしれない。だから、
「XY処理が30秒でできるんです」
といえば、業界内の人は「おおー」っとひれ伏すだろう。
しかし、それ以外の人に理解してもらうためには、
「XY処理が速いのはなぜ重要か」
「業界標準はどれくらいか」
の二つを説明しないと伝わらない。
注意事項:秘密主義は自分の首がしまる
「自分の会社のすごいところをいうなんて企業秘密を開示するのと一緒。よく知らない人になんか言えない」
という人、います。時々。日本では、「自分の直接の顧客以外に売り込んでも意味がない」ということが多いからではないかと思うのだが、上述したとおり
「業界のインサイダーでない、しかしビジネスのプロの人たちに自社を売り込めることが、人の関係でビジネスができていくネットワーク社会のアメリカでは非常に大事」
なのです。あまりに大事なので、赤字にしてみた・・・。
すでにアメリカで実績があるなら、何も言わなくても相手から門戸をたたいてくる、なんてこともあると思うが、「日本ではすごいことをやっていても、アメリカではゼロから」というときは、どれほど売り込んでも売り込みすぎることはない。
それに、これから立ち上げるビジネスの場合、たいてい「夢のような秘密」なんかない。むしろ、すべて教えて、ぜひそれを実現してくれとお願いしても、してくれないのが普通です。何も、すべての秘密を開示しろとは言わないが、「どこがすごいのか」を思い切り売り込まなければ、優れたアメリカの人的ネットワークを築くことなどできません。
参考まで、最近のTechCrunchの記事でStealth Startups, Get Over Yourselves: Nobody Cares About Your Secretsというのがあった。Stealthは秘密モードで起業中、ということ。訳すと「ステルスのベンチャーへ。いい加減に気づいたら?誰も君の秘密なんか知りたくないよ」と。これに対するY Combinatorのアントレプレナー・アントレプレナー予備軍の皆さんのスレはこちら。
私の業界はビジネスではないけど、「むしろ、すべて教えて、ぜひそれを実現してくれとお願いしても、してくれないのが普通です。」とういうところ、良く分かる気がしました。外国で働いていて一番大変なのは、「何が可能性が高いと思うか? 良いと思うか?」っていう理屈を超えた、gut feelingの置き場が違う場合が多々あるということだと思います。そうなるといくら事実を積み重ねても、相手が動かない。でも相手が動くかどうか、事実を積み重ねてみないと分からない。うーん、難しいですね。
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