Schwarzeneggerのその後

Schwarzeneggerがカリフォルニア州知事になって約6ヶ月。今のところ驚くべき敏腕政治家振りをイカンなく発揮している。

そもそもカリフォルニアというのはとんでもない州で、行き過ぎた民主主義で崩壊寸前だ。去年のエントリー、壊れているカリフォルニアでも書いたとおり、直接投票が多すぎる(20年間で600件以上の案件が州全体の住民投票にかけられた。これ以外に市町村レベルでもさまざまな直接投票がある)のに加え、州予算可決には議会の3分の2のsuper majorityが必要なため、毎年全然予算が決まらない。

そんな中、唐突に登場したのがSchwarzeneggerなのだが、今のところ州政府からメディアに至るまで皆が瞠目する成功を次々に打ち出しており、Economist誌は、「Schwarzeneggerは次は水の上を歩くかも」、と。不可能を可能にする成功ぶりを表現したもの。選挙中は、セクハラ問題・ドラッグ問題など、過去をいろいろ突付かれたが、その全てがかすむような大活躍だ。

Economist:Easy stuff, government
「政治なんて簡単」というタイトル。

PERHAPS Arnold Schwarzenegger’s next trick will be to walk on water. In the past six months he has exchanged a fading movie career for the governorship of California; persuaded a reluctant electorate to borrow $15 billion to keep the state solvent; and even, while on an Easter break in Hawaii, helped save a man from drowning.

San Jose Mercury: Governor’s approval rating surpassing Reagan, Brown

Six months into his first term, Gov. Arnold Schwarzenegger’s approval ratings have hit a personal high, making him more popular than legendary leaders Ronald Reagan and Pat Brown were in their heyday.

記事内には、Schwarzeneggerが属するRepublicanのみならずDemocratの間でも信任票が増えている、とある。アメリカは二大政党制ゆえ、その間の溝は大きい。Democratからも好かれるRepublicanの知事というのは中々得がたい存在。それだけ、Schwarzeneggerの働きが優れているということ。

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Schwarzeneggerのこれまでの実績の例を挙げると・・・・

●選挙公約の「自動車税増税撤回」を就任するなりすぐ実行、既に支払われた自動車税を州民に還付。(知事には撤回権限などない、など州政府の役人は選挙中はいろいろ言っていたが、その声はあっという間に消え去った。)

●今まで殆ど税金を払わずに来たインディアン自治区のカジノへの課税強化。(日本では靴など革製品の関税が部落問題関連で中々手がつけられなかったが、それと似た差別問題が絡んでいるのでこれまで難しかった。)

●財政復活のための州債権発行の承認取り付け(巨額の財政赤字もこれで当面しのげる)

など。上記のEconomistの記事に寄れば、休暇で行ったハワイでは、おぼれそうになった人を助けるという実績まであげたらしい。

どうも、Schwarzeneggerは
1)しなければならないことに迅速に優先順位をつける
2)対立する意見を上手く取りまとめるために必要な、クリエイティブな発想ができる
という能力が高いのに加え、
3)人に好かれる
ことができる人のようだ。

例えば、2に関しては、上記のインディアンカジノ問題での説得技術がある。もちろんインディアン側は課税には抵抗した。しかしSchwarzeneggerは「だったら、インディアンだけでなく、誰にでもカジノオープンを許可する」と爆弾発言。既得権益を奪われたくないインディアン側は渋々応じた。

もちろん、この手の発想はよいブレインが周りにいて、そこから出てくるのかもしれない。また、今Schwarzeneggerが実行しているプランは、どれもリコールされた前知事Davisが打ち出したものと何も変らない、とも言われている。しかし、Davisは怜悧な官僚的性格で冷たい印象を与えることもあって、相反する利害関係を持つたくさんのグループを説得することができなかった。政治では、こうした説得能力が非常に重要だが、Schwarzeneggerは神業的に皆に妥協を納得させ、しかも「中々いい知事だ」と敵対するグループからまで好かれている。

とはいっても、まだまだ6ヶ月。リコールされたDavisも最初は「次は大統領か」とまで言われていたが、テクノロジーバブル崩壊による税収の激減と、エネルギー危機を乗り切れなかったことで人気が地に落ちた。Schwarzeneggerも今後起こるカタストロフィーをどう乗り越えるかで真価がはかられるのは確か。

しかし、so far「かっこいい!」の一言。一芸に著しく秀でる人は他のことでも優秀、ということでしょうか。

Schwarzeneggerのその後」への8件のフィードバック

  1. 毎回素晴らしい内容をありがとうございます。現地に居ないと判らない情報を、実感も含めて非常に上手く説明いただいて、拝見するのを楽しみにしています。

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  2. 最近毎日このBlogを見にきています。SNSで偶然見つけていらいすっかりこのサイトのファンになりました。
    優先順位をつけるってなかなか私はできていません。つけなくちゃいけないのは分かっているんですが、やっぱりやりやすい仕事から片付けてしまいます。大事だとわかっていても面倒くさいと後回しにしてしまう・・・。少しずつでも優先順位順に仕事をやっていけるようにしないと、と改めて思いました。
    Schwarzeneggerの出身地に一時期住んでいたことがあるのでSchwarzeneggerには親しみがもてます。頑張って欲しいです。

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  3. maida-san,
    どうもどうも;-p
    hirohiko-san,
    ありがとうございます。Schwarzeneggerはナチ党員の息子ですが、(彼の育った村の男性は殆どそうだったとのことです)、父親はものすごい厳しい人だったとのこと。でも村中のオトウサンが厳しかったらしく、「父親に折檻されて井戸に突き落とされた」と友達に言ったら
    「俺なんか耳をちぎられた」
    といわれる、みたいなことが頻繁にある生い立ちだったらしいです。
    Schwarzeneggerのように、いろいろな過去を持った人が世界から集まって、いい天気の中で建設的な人生を送っているのがカリフォルニアというところなんだなぁと思います。

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  4. Chika-san,
    Grazってそんな町だったんですね。知りませんでした。今はのどかでいい町ですよ。メインストリートにおいしいアイスクリーム屋さんがあったりして、過去にそんな状態だったとは思えなくなっています。
    「いい天気の中で」というのが羨ましいです。ヨーロッパは冬はずっと曇っていますから。東京は晴れは大いにしても空気がよごれすぎの気がします。田舎出身にはきついですxp

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  5. セレーノ

    On Off and Beyondよりこのエントリです。 今回は本題と向かい合うのでトラックバックさせていただきました。 カリフォルニア州知事になったシュワルツネッガー氏が意外にも健闘している��…

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  6. ベイエリアは空気がとってもきれいです。ロサンジェルスに行くと、「あー、排気ガスの空気がよどんでいるのって東京みたいで懐かしい」とか思ったりします。

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  7. ヤスはポートピアの犯人

    Remembering Reaganまあ,業績は良くしらんが,俺の知っている中で最もアメリカの大統領らしい大統領であったことは確かであろう. I now begin the journey that will lead me into the sunset of my life. I know …

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