Katharine Graham: Personal History

ご無沙汰しておりました。休暇だったのであります。

休暇前の仕事のラップアップで忙しくなったあたりからblogをサボり始めたらあっという間に3週間近くたってしまった。

休暇には本を2冊持っていった。日本語の本だと、読み飛ばせるのでたくさん持っていかないとならず重くて大変だが、英語だと読むスピードが日本語の5-6分の1なので2-3冊で結構楽しめる。喜んでよいのやら悲しんでよいのやらわからないが。

1冊はWashington Postの社長だったKatharine Grahamの自伝。Pulitzer賞も受賞した本だから、読んだ方もいると思う。以前買ったのだが、みっしりと細かい字で、しかもずっしり600ページ超の重さに圧倒されて、本棚に置きざりになっていたもの。

富豪の娘として生まれ、召使が何人もいるお城のような家(複数)で育った後、貧しい家の出身だが気鋭の弁護士と結婚。やがて彼女の父親が経営していたWashington Postを、30代前半でダンナ(つまり入り婿的跡取り)が引き継ぐ。ダンナはテレビ局やNewsweek誌などの買収を繰り返し、精力的に事業拡大を図るが、激しい鬱病となり自殺。それまで主婦だった彼女が40代で事業を継ぐ。その後Watergateや激烈な組合闘争を勝ち抜き、彼女の指揮下でPostはFortune500に入る大企業となる・・・という波乱の人生を冷静に追った自伝である。

こんな濃い人生を送る人がいるとは。4つの異なる話=ストーリーがぎゅーっと詰まっているような本だ。

最初の「ストーリー」は大金持ちの娘の生い立ち。エキセントリックな両親と、途方もない富の中での子供時代が語られる。Katharine Grahamの父親が、親戚に
「うちの奥さんは二度同じドレスを着ないくらい着道楽で困ったものだ」
と冗談めかして嘆くと、
「まさか、自分の妻が二度同じドレスを着るなんて期待しているわけじゃあるまいね?」
という返事を返す、これまたとてつもない親戚がいたりとか。(親戚のほうの奥さんは毎年パリで莫大にドレスを買い込んでいた)Katherine Gtahamの学校の友達が遊びに来ても、バトラーや給仕に囲まれて、広大なダイニングルームでの食事に怖気づいたりする。

次の「ストーリー」は、これまたエキセントリックなダンナとの20年以上の結婚生活の話。非常に魅力的で明晰な頭脳を誇るダンナにじわじわとけなされ続け、自信を失っていくKatharine Grahamの姿が語られる。ダンナはビジネスの世界で注目を集め、JFKとも親交を深め政治的にも精力的な活動を繰り広げるが、躁鬱が激しくなってくるにつれて常軌を逸した行動が目立ち、ついには若い愛人と出て行ってしまう。その後、激しい鬱になったところでKatharine Grahamの元に戻ってくるが銃で自殺。

3つめの「ストーリー」は、ダンナの死んだ後、突如Washington Post, Newsweek、テレビ局などのグループ企業のトップとなり、未知のビジネスの世界にトライしながら強い自分を確立していく話。ダンナの死後すぐのPostでのスピーチでは、あまりに困り果てているKatharine Grahamを見かねた大学生の娘が「話の順番」のメモを書いてくれたりする、という途方にくれた未亡人の姿が語られ、その後の変貌を際立たせる。

最後の「ストーリー」は、傑出した経営者としてWatergateでニクソンを追い詰め、さらに暴力的な組合闘争に打ち勝って行く話し。トップマネジメントを次々に首にしたり、組合との戦いの仲介者には「組合に屈するくらいだったら喉をかききる」と宣言したり、という「強いトップ」の姿が語られる。

どの「ストーリー」もそれだけで一つの自伝を構成できる力と重みを持ったものである。普通の自伝のほとんどが、一つの「ストーリー」に、そのバックグランド情報をまぶしたものだとすれば、これはKatharine Grahamという人間が、いくつもの「ストーリー」を積み重ねて至った「人間としてのexistance」を語った類稀な自伝なのだ。

そういえば「存在の耐えられない軽さ」という本を昔プラハに行ったときに読んだ。(ある場所に行くときは、その土地を舞台にしたり、その国の人が書いていたりする本を読むのが好きなので。感じがでる、でしょう?・・・映画のほうは見ていないのだが)この本の私なりの解釈は「人間は人生で出会ういろいろなできごとに関し、起承転結を完結させて積み重ねていくことで本当の「存在」になる。つらいことも多い「転」や「結」を恐れて、楽しい「起」ばかり繰り返していると、かるーい「存在」になってしまう」ということ。ストーリーがストーリータルゆえんは起承転結の最後までがあること。でなければ、ただのエピソード。人は「ストーリー」を積み重ねて「存在」になるのである。

そういう意味ではKatharine Grahamは起承転結に満ち溢れた「重い存在」の人なのでした。

Katharine Graham: Personal History」への4件のフィードバック

  1. お帰り?なさい!
    夏休み中だろうと信じながらもクローズじゃないよなあ
    と何度も確かめに来てしまいました。:p
    メディア王の娘というとパトリシア・ハーストの人生も劇的といえばそうなのでしょうか。
    それから大富豪家の娘の一生記と聞いて最近読んだすぐに↓を思い出しました。
    ナンシー・キュナード
    http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0794.html
    あ、読んだというのは書評です。ここの書評は実物を読んだ気になってしまうのがマズイというかステキというか。……あきたらずに買ってしまうことも少なくないですが。
    ともあれ、よくお休みになれたようでよかったです。:)

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  2. 3週間近く放っておいたのに、エントリーを書いたその日にコメントくださるとは感動しました。心を入れ替えて(ちょっとだけ)まじめに書きます。。。Thank you!!
    松岡正剛さんの千夜千冊はすごいですよね。ニューロマンサーまでカバーしてて驚いたものです。。

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  3. ふーらふーらしていたところに貴殿のブログ発見し、拝読させていただきました。もう、さっそく、この本を今、amazon.comでオーダーし、今読んでいる本が終わったらとりかかってみようと思います!!!ちょくちょくお邪魔しますのでエントリー楽しみにしてますねっ!

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  4. tomoko-san,
    はーい、DCでご活躍のご様子、ブログで拝見いたしました・・。Personal History、もしよかったら読み終わったあと感想を聞かせてください。
    では!

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